例年3月に実施されるJRダイヤ改正。列車の運転時刻を「よりよい方向」に直すことを指し、新たな列車が走り始めたり、1本の列車に連結される車両の数が増えたりといった施策は利用者にとってありがたいですね。いっぽうで、利用の芳しくない列車が運転を取りやめたり、1本の列車に連結される車両の数が削減されたりするケ―スもまま見られます。
 言うまでもなく、ダイヤ改正とは利用者の利便性を向上させるために行うべきもの。同時に、鉄道事業者の営業収支を改善させるという観点からも必要な方策です。人材や車両、線路といった限られた経営資源を再配置し、いかに営業収支を改善させていくかという鉄道事業者の知恵がダイヤ改正には詰め込まれています。

ダイヤ改正で収支は改善するのか

 列車の新設や1本の列車に連結される車両数の増は営業収益の増加、列車の廃止や1本の列車に連結される車両数の減は営業費用の削減という観点から、JR各社のダイヤ改正の内容を検証していきましょう。

特急の一部札幌乗り入れ中止に衝撃

 ■JR北海道

 列車の新設が4本、1本の列車に連結される車両の数を延べ28両増やすことにより、JR北海道の営業収益は年間991222595円の増加が見込まれる。いっぽうで、列車の廃止10本によって予想される営業費用の減少額は年間725138230円だ。営業収益の増加と営業費用の減少とを合わせると、営業収支の改善額は1716360825円となる見通しとなった。

 今回のダイヤ改正で注目されるのは、札幌と稚内・網走との間を結ぶ宗谷・石北両線系統の特急列車14本中8本の運転区間を変更し、旭川―稚内・網走間とするというものだ。北海道最大の都市札幌への乗り入れ中止は沿線の関係者に少なからず衝撃を与えた。

 今回の措置は財務状況の悪化によって車両の更新がままならず、使用可能な車両が減るからだという。しかし、折悪しく宗谷・石北の両線はJR北海道単独で維持できない線区と見なされたため、沿線の自治体では路線の廃止への一歩ではないかと警戒を強めている。

 さて、札幌―旭川間の特急列車の本数は現状で60本、うち宗谷・石北両線系統の直通分は14本だ。ダイヤ改正で新たに3本が設定される一方で1本が廃止、前述のとおり宗谷・石北両線系統の直通分は8本が廃止となるので54本となり、差引6本の減少となってしまう。この区間の輸送需要そのものは存在するので、営業収益の減少は避けたいところだ。

 JR北海道は北海道新幹線の開業前に青森―函館間の特急列車に用いていた車両を移動させると発表した。この結果、札幌―旭川間の特急列車のうち28本については従来の5両編成に1両連結した6両編成となる。延べ28両の車両が増える結果、この数値を従来の5両編成で除すれば5.6となり、差引6本の減少はほぼ相殺されそうだ。

「はやぶさ」2本増で17億円の増収見込み

 ■JR東日本

 新設される列車が26本、1本の列車に連結される車両の数を延べ364両増やす結果、JR東日本の営業収益の増加額は年間4467352762円と予想される。いっぽうで50本の列車が廃止となり、1本の列車に連結される車両の数も延べ15両減らされるために営業費用の減少額は年間1686476874円に上る見込みだ。以上から、営業収支の改善額は年間6153829636円と見込まれ、JR各社中最大となった。

 東京と仙台との間の輸送需要が好調なことから、JR東日本は東北新幹線東京―仙台間の「はやぶさ」2本の増発を行う。これだけで営業収益の増加見込み額は年間1708638967円に上る。


成田エクスプレスは増結、内房線普通は減便

 引き続き旺盛なインバウンド需要を取り込むため、成田空港アクセス特急の「成田エクスプレス」は東京―成田空港間の6本に対して連結される車両の数を6両増やし、12両編成で運転されるという。この結果得られると予想される営業収益の増加額は年間776424308円だ。

 運転区間の短縮を含めて廃止となる50本の列車のうち、最も多く、また最も沿線の自治体に衝撃を与えることとなったのは14本が廃止となる千葉―木更津間の内房線系統の普通列車である。

 今回の措置は、現状で千葉―安房鴨川方面間を行く内房線系統の普通列車のうち、千葉―木更津間を廃止して木更津―安房鴨川方面間の運転に変更することによるものだ。千葉―木更津間での旅客の減少、それから2015年度の旅客輸送密度が3254人と少ないために営業収支の悪い内房線君津―安房鴨川間の列車を千葉方面に乗り入れないようにして列車キロの削減を図るという2つの理由が挙げられる。

 JR東日本は千葉―木更津間の沿線の市原市に対し、当初東京方面への直通列車の削減を打診したという。市原市としてはこのような提案は受け入れがたく、結局今回の内容に落ち着いた。

経営資源の適切配置で改正は最小限に

 ■JR東海

 新設の列車3本、そして1本の列車に連結される車両の数を延べ3両増やし、営業収益は年間218430934円の増加の見込みだ。他方、2本の列車が廃止となる結果、年間32008895円の営業費用の減少が予想され、合わせて年間250439829円の営業収支が改善されると見込まれる。

 列車の本数や1本の列車に連結される車両の数に変化が生じないと発表されているJR四国を除くと、JR東海のダイヤ改正の規模は最も小さい。しかも、ダイヤ改正で変化が生じるのは東海道線だけであり、区間も三島―静岡―島田間と限定的だ。これらのうち、最も大きなウエートを占めるのは沼津―静岡間を結ぶ通勤列車の「ホームライナー」で、土・休日に運転される分の調整となる。

 ダイヤ改正の成果は規模の大小では計測できない。規模が小さいということはそれだけ経営資源が適切に配置されているからと言える。


一度廃止の区間再開で営業収益増加へ

 ■JR西日本

 列車の新設が130本、1本の列車に連結される車両の数を延べ252両増やすことにより、JR西日本の営業収益は年間4838448606円増加の見込みだ。いっぽうで24本の列車の廃止と述べ2両の車両が1本の列車に連結されなくなる。

 この結果、予想される営業費用の減少額は年間243335899円で、合わせると営業収支の改善額は年間5081744505円となる見通しとなった。営業収支の改善額はJR東日本に次いで多く、営業収益の増加額はJR各社中最多だ。

 営業収益を増やす要因となったのは新たに開業する可部線可部―あき亀山間16キロメートルである。横川方面を発着する列車を延長する形態とはいえ、99本もの列車が新たに走り出すからだ。

 実はこの区間は2003121日に可部―三段峡間46.2キロメートルが廃止となった際に一緒に営業を取りやめた。その後、沿線の人口が増え、整備のうえ営業再開の運びとなったという極めて珍しい経緯をもつ。

 JR西日本はダイヤ改正以降も関西空港線系統の列車には変更を施さない。とはいえ、関西国際空港では20171月下旬に第2ターミナルビル(国際線)の開業が予定されており、旅客の増加が期待される。現に並行する南海電気鉄道は輸送力の増強を旨としたダイヤ改正を2017128日に実施するという。JR西日本も関西国際空港の利用者の動向を見ながら、今後列車の新設といった措置を取るかもしれない。

新観光列車は4月登場、ダイヤ改正は変化なし

 ■JR四国

 公式の発表によると、JR四国は今回のダイヤ改正で列車の新設や廃止、1本の列車に連結される車両の増減は行わないという。そのいっぽうで同社は41日から土讃線多度津―大歩危間で新たな観光列車「四国まんなか千年ものがたり」を1日に2本走らせると発表した。

 JR四国の1列車1営業キロ当たりの営業収益は1113.1円だ。多度津―大歩危間の営業キロは65.5キロメートルで、年間の運転日数は170日程度と発表された。したがって、営業収益の増加額は24789104円の見込みだ。


上場後初の改正で観光列車新設

 ■JR九州

 新設される列車が18本で、廃止となる列車は存在せず、1本の列車に連結される車両の数の増減はいまのところ発表されていない。以上から営業収益の増加額、そして営業収支の改善額は年間839840510円と見込まれる。

 今回のダイヤ改正で注目されるのは、鹿児島・肥薩線の熊本―人吉間に観光列車の「かわせみやませみ」が6本誕生するという点だ。同列車の新設に伴って増加する営業収益は年間398576324円。JR九州のダイヤ改正で増える営業収益中で最多を占める。

 鹿児島・長崎線を行く特急「かもめ」の増発も目に付く。今回既存の列車の区間延長2本を含めて3本が新設され、営業収益の増加額は合わせて205778742円に上る。
JR
九州は去る1025日に上場を果たした。初めて迎える今回のダイヤ改正の成果は株主にとっても目を離せないであろう。

モーダルシフトが追い風に

 ■JR貨物

 列車の新設は6本、1本の列車に連結される車両の数は延べ48両増え、列車の廃止や1本の列車に連結される車両の減少は行われない。この結果、JR貨物の営業収益は年間2542528109円増加し、この金額がそのまま営業収支の改善に結び付くと期待される。同社のニュースリリースによると、「トラックドライバー不足を背景とした物流業界の構造的問題を背景に、モーダルシフトに対する社会からの期待が高まっている」からだという。

 新たに誕生する列車のなかで最も営業キロが長いのは、盛岡貨物タ―ミナルと愛知県の笠寺との間896.9キロメートルを結ぶ「TOYOTA LONGPASS EXPRESS」だ。トヨタ自動車東日本の岩手工場への部品の輸送を目的としており、既存の2本に今回加わる2本と合わせて4本体制となる。

 名古屋貨物ターミナル―福岡貨物ターミナル間827.0キロメートルには今回2本の列車が設定となった。宅配便を中心とした貨物輸送の需要は高いための措置であるという。

 新設となる列車の残り2本は既存の列車の区間延長である。2本とも東京貨物ターミナルと大阪府の吹田貨物ターミナルとの間の列車に対し、吹田貨物ターミナル―神戸貨物ターミナル間43.7キロメートルが延長されることとなった。実は既存の列車2本は2016326日実施のダイヤ改正で誕生したばかり。登場から1年でさらに成長を遂げる結果となり、JR貨物にとっては明るい材料と言える。